11月11日(日)、大阪府堺市の大仙公園にて開催された「灯しびとの集い」に行ってきました。関西エリアでは最大規模のクラフトフェアです。出店作家そして作品のレベルの高さ、来場者の見る目、そして会場全体のクオリティの高い空気感。間違いなくトップレベルのクラフトフェアです。
僕の個人的な意見として、長野県松本の「クラフトフェア松本」、千葉県市川の「工房からの風」、そして大阪府堺の「灯しびとの集い」の3つは日本における三大クラフトフェアだと思っています。もちろんほかにもクオリティの高いクラフトフェアはありますし、僕自身すべてを見ているわけでもないですが、明らかにここであげた3つのクラフトフェアは別格ではないかと。
ここ10年ほどで爆増してきたクラフトフェアやマルシェや市は、作家のしごとを一般の人に直接届けるという機会をたくさん増やしてきました。しかし、その流れのなかで、作家にとって「あのクラフトフェアに出たい」と思われる”目標となるクラフトフェア”と、表現が悪いですが”消費されるクラフトフェア”の二極化が顕著になってきていると思います。
今回は、その二極化について考えてみたいと思います。
目次
目標となるクラフトフェア
目標となるクラフトフェアには次の点において主催者側の非常に強いこだわりがあります。
開催の目的に「作家の育成」がある
消費されるクラフトフェアとの違いの根本はすべてこの「作家の育成」という観点が主催者側にあるかないかにあります。目標となるクラフトフェアの主催者側の人たちの話からは、いかに作家さんを育成し、世に送り出すかということを考えていることが伝わってきます。
その手法はそれぞれのクラフトフェアによって違いますが、共通しているのは、そのクラフトフェアが作家にとって新しい作品の、新しい技法の発表の場になっているということ。年に1回、そのチャンスのために作家は考え、作り、そして考え、さらに作るを繰り返してきます。その発表の場がそのクラフトフェアにふさわしく、そして主催者側もそういう作家をセレクトしていきます。
表立って「作家の育成」を謳っているわけではありません。しかし、主催者のレベルの高い要求に応えようと努力する作家がいて、そういう作家たちを選出することでその流れが生まれます。この流れに乗れる作家、乗っていこうとする作家と主催者の思いによって、目標となるクラフトフェアはさらに高い目標へと変わっていきます。
出店における厳しい選考
作家の選考はクラフトフェアにとって命です。それがそのクラフトフェアのクオリティをほぼ決定づけていきます。そのため、僕が上げた三大クラフトフェアの主催者はみなかなりのこだわりをもって選考をしています。
一時期クラフトフェアが流行り、作家と名乗る人も増え、自然にクラフトフェアの選考に通るためのテクニックも広がっていきました。写真数点で選考されるのであれば、みんな写真が上手になっていきます。しかし、実際に作品を見てみると、「あれ?写真と違う」ということが発生することになりました。
そのため、主催者側も選考の基準を厳しくしていく必要があります。クオリティを落としたくないので必死です。
また、選考委員にだれを置くか、ということも重要な点です。知識がある作家たちは、その選考委員の顔ぶれでもクラフトフェアを見定めます。逆にそういう作家たちを集めるために主催者側も著名な方を選考委員におきます。
ある主催者は、「素材」「技術」「センス」の3点で選考するとおっしゃっていました。「センス」というのは作家の”人となり”からにじみ出る感性と空気感だと僕は解釈しています。もはや写真だけでは表れない部分を見ているのです。
どんな人が来場しているのか
こだわりの上で、たしかな作家の選考によって成り立つクラフトフェアだからこそ、多くの人を魅了します。その会場に行けば、アートや工芸の分野にこだわりをもっていそうな雰囲気の方たちが多くあつまり、その人のあつまりが全体の空気を作っていきます。バイヤーやギャラリーのオーナーなど作家にとってまさにつながりたい人たちも多く来場しています。
かつてクラフトフェアがブームになった10数年ほど前は、こういった場所からバイヤーの目に留まり、人気作家になっていった作家たちが出てきました。一時期、もうそういうことはない、といわれることもありましたが、バイヤーの方たちは常に良いものを探しています。よってクオリティの高いクラフトフェアにはやはり来場し、しっかり人とモノを見ているのです。
消費されるクラフトフェア
一方で、消費されるクラフトフェアにも特徴があります。
賑わいが目的
多くの場合、「賑わい」をつくることが主たる目的となっています。成功するクラフトフェアにたくさんの人が押し寄せている光景を見て、これなら地域の活性化につながる、と踏んでクラフトフェアを開催するところが出てくるのはおかしくありません。
ただ、賑わいを目的にしているクラフトフェアは、作家にとってルーティーンの一つになります。今月はここ、来月はここといった出店するスケジュールに組み込まれ、そしてそれぞれに出していくものも同じものになっていきます。この流れに組み込まれていくと、クラフトフェアの平均化につながり、お客さんからは「どこいっても一緒」といったような表現をされることになります。
そのため、イベントの質を保つのが大変なのです。
「賑わい」を目的とすること自体悪いことではないですし、むしろ人を呼び込む努力はどんなイベントにも必要です。「賑わい」を目的に開催し、たくさんの人が来てもらえるイベントにしていくことはとても大変です。なのでその目的を達成できているクラフトフェアは素晴らしいわけです。ただ、それだけが主目的となるとほかのクラフトフェアと同質化するという流れになってしまいます。
売れることが第一
賑わいを目的にしているクラフトフェアでは、そのイベントで売ることを目的に来られる作家さんが多くなるので、売れる、売れないで評価されることになります。そのため、主催者側は多くの人を呼び込み、売れるような仕掛けをイベント全体で仕掛けていく必要があります。そういう努力をしているクラフトフェアは、作家さんたちからの人気が高くなります。その時点で、主催者、出店者のニーズが満たされれば問題はないでしょう。
質(たち)が悪いのは、売るために出店しているのに、ろくに接客もせず、作品を並べるだけ並べ、自分はスマホをいじっている、、、といった出店者さんです。それでいて売れないと、「あそこは売れない」と悪評価していく。。。
双方の努力があってこそ成り立つのが、「賑わいを目的としたクラフトフェア」なのです。
賑わいを生み出した先にどこを見据えるのか、それによって単なる消費されるクラフトフェアに陥るのか、さらなる次のステージに上がるのかが決まります。
作家はどこを目指すのか
クラフトフェアに出店する場合、作家自身がどこを目指しているのかを定めたうえで、どこに出店していくのかを考えなければいけません。作家として名を上げていくことを目標とするのであれば、実績として明記できるようなクラフトフェアにチャレンジしていく必要があります。一方で、収入をしっかり得ていくためであれば、小さな規模のクラフトフェアを数多くこなしていくことも大事になります。
クラフトフェアはどこを目指すのか
クラフトフェアの主催者側にとっても、何を目標・目的に据えて開催するかによって、取り組むべき内容が変わってきます。
目標となるクラフトフェアにしていくのであれば、作家の育成という観点を持ち出店者のセレクションのクオリティを高める必要があります。そして、作家さんたちが望むお客さんたちを呼び込む必要があります。
賑わいを目的としたクラフトフェアを開催するのであれば、一番重要なのはたくさんの人がまず来ることです。そしてそのうえで売れることです。そのために必要な仕掛けをどれだけできるかにかかっています。
タイトルでは「消費される」というネガティブな表現をしていますが、そうならないためにも、「何のために」開催するのかを明確にしたうえで、ほかとの差別化に真剣に取り組んでいく必要があります。
関わっているイベントがいくつかあり、さまざまなイベント、クラフトフェアを見て回る中で、いろいろ思うことがありました。そのなかで今回は、クラフトフェアの二極化について整理してみました。