寒の戻りで冷たい風が吹き抜ける2月最後の週末、岐阜 柳ヶ瀬 ロイヤル劇場ビルは熱かった。夜になると、ただでさえシャッターが閉まっている店舗が多い中、まん延防止措置によって普段ならにぎやかなお店すら閉まっている中、50人以上の大人たちがロイヤル劇場ビルに集まり、熱い議論を交わす。
第3回 リノベーションスクール@岐阜。
この柳ヶ瀬、そして伊奈波を舞台に、特定の空き物件を活用し、どのような事業が考えられるのか、それを3日間(実質2.5日間)でチームメンバーと共にプランを考え、金銭的な収支も踏まえて事業計画に落とし込み、物件オーナーや市長をはじめとする行政の方々、そしてまちのみなさんの前で発表するという、スパルタなプログラムです。
今回、そのリノベーションスクール@岐阜に、ローカルユニットマスターという役割で関わらせていただきました。事前情報をほとんどいただくことなく、当日を迎え、担当するユニットに対して、なにをどうすべきかもその場で判断しながら過ごした3日間。気づいたら最後のプレゼンで他のユニットの発表も含めて聞く中で、内から熱いものがぐつぐつとしているのを感じていました。その記録をここに記しておきたいと思います。
目次
リノベーションスクールとは、リアルを直視し、新しいリアルを生み出す共創の場
リノベーションスクールとは、人口減少と人々の多様化する価値観の中で変わっていくまちの姿、とりわけ空き家やシャッター街といったハードの部分と、それを活かしたい、そこであたらしい挑戦をしたいといった熱い想いを持つ人たちをつなぎ、新たな事業を生み出すことを目的とした短期集中のプログラムです。2011年に北九州ではじまったリノベーションスクールは、今や全国各地で行われ、韓国など国外でも実施されているそうです。
今回、僕も初めて関わらせてもらい実感しましたが、その特徴はなんといっても”リアル”であること。実際の空き物件をもとに、いかにその場所とその周辺にとって求められる事業を生み出すことができるか。夢物語ではなく、ビジネスとして成り立つ説得力ある計画を打ち出せるかです。
参加者は、サラリーマン、建築士、学生、公務員、学校の先生、事業家などさまざまな専門知識、バックグラウンド、特技を持った人たちが集まります。今回、最年少は高校3年生!
世代も価値観も違う人たちがユニットとしてチームとなり、意見を出し合い、一つの事業計画を2泊3日で練り上げる、まさに共創道場です。
3回目となる岐阜でのリノベーションスクール
岐阜では、柳ヶ瀬を舞台にこれまで2回開催されてきました。僕自身はとても興味はあったものの、当時は一人会社であり週末が営業日。リノベーションスクールは金曜日から日曜日で開催されるため、週末が仕事だと参加できないんですね。泣く泣く断念してきました。しかし参加している人たちのFacebookなどのSNSでの投稿を見る限り、とてもハードなものだと推測されました。
昨年からは、空き物件とは関係なく、特定のエリアでコンテンツを開発するというコンテンツ開発コースというのも取り入れられました。そのコンテンツ開発コースでは、”みんなの沼「ぎふメディアコヌモヌ」”というプロジェクトが生まれ、そこから生まれた「岐路メシ」というトークイベントが実際に実施されました。
僕も、呼んでいただき、楽しくトークさせていただきました。その時の様子は岐路メシ公式noteで公開されています。
さて、3回目となるリノベーションスクール@岐阜。今年もやりますよーと声がけいただいたのですが、なんとローカルユニットマスターというかっこよさげな役割を打診され、よくわからぬまま、いいですよーと返事をしました。これまで大きく立ちはだかっていた壁 ”週末仕事”は、スタッフに任せることができるようになったので、週末のイベントも調整次第で参加可能になったのです。
ユニットマスターとローカルユニットマスター
リノベーションスクールについては、前知識なく参加したのが正直なところ。どういう人がどれくらい参加して、どういうふうに事を進めていくのか、まったく知りませんでした。ローカルユニットマスターという人がいること、その上にユニットマスターという人がいること、そもそも誰が主催・運営しているのかも知らず、プレスクール初日に、初めて仕組みを知った、というのが事実です。
ユニットマスターは、各ユニットを統括する、または導く役割ですが、リノベーション界で先駆的な事業を行い、全国的にも知られる方が就きます。
ローカルユニットマスターは、地元でコトを起こしている人、事業を営んでいる人が就くポジションで、ユニットマスターと共に、担当ユニットメンバーにアドバイスや時には厳しい指摘をしながらプランをまとめ上げるのを導きます。
個人的には、最終プランのレベルは、もちろん参加者ひとりひとりのスキルや努力の積み重ねの結果になるのですが、ユニットマスター、ローカルユニットマスターの采配で最終プランの出来栄えが大きく変わってくるな、と思いました。
とはいえ、そんなこともつゆ知らず、自分が何をしなければいけないのか、まったくしらないまま挑んでいました。(スミマセン)
プレスクールでご対面
今回、コロナの影響で、日程が延期され、2月25日(金)~27日(日)の3日間が会期でした。
それまでに、ユニットマスターの方々の事前セミナーが開催されたりして、徐々に機運やマインドをそちら方向に仕向けていく感じがありましたが、単発的にイベントに参加している感覚でした。
しかし、2月に入り、第1回プレスクールが開催されます。ここではZOOMで全参加者が集まり、自己紹介をして、少なからずどんな人が参加しているのか知ることができました。ここで一気にリノベーションスクールを現実的に捉え始めます(←遅い)
実は、ローカルユニットマスターは4人いたのですが、みながみな、何をすればいいのかわからず、不安すぎて、オンライン開催といわれているのに、ローカルユニットマスターだけみんな同じ場所に集まっているという謎の現象が起きました(笑) (それだけ事前情報がなくみな不安だったのです。。。というか、聞いても教えてもらえなかった・涙)
このプレスクールで参加者は多様な肩書の人がいて、さらに岐阜だけじゃなく、県外からの参加者もとても多いことを知りました。
そして発表されたユニット。
僕は、ユニットB。不動産リノベーションコースでした。メンバーは、建築系、美術系、まちづくり系という布陣で、まさに不動産リノベーション寄りに組まれている感がありました。このプレスクールでは、お互いに自己紹介をする程度で、次回プレスクールに向けての宿題が出されました。
2回目のプレスクールは2週間あいての開催。宿題は、動画教材を見ること。そして実際に柳ヶ瀬のまちを歩いて、気づいたこと・気になったことをリストアップすることでした。ローカルユニットマスターももちろん参加者同様に宿題を行います。
オンラインで開催された2回目のプレスクールでは、それぞれがリストアップしてきた事柄を共有しながら、柳ヶ瀬を客観的にみて事実や印象を整理するという内容でした。
僕自身、柳ヶ瀬は高校生の時によく行ったなぁという程度で、最近は、サンビルでにぎわってきてるな、おもしろいお店が増えたなという印象を持っているぐらい。あまり柳ヶ瀬をよく知らないというのが本音です。だからこそ、このプレスクールから本番を通してすごくいろんな見方があり、人それぞれの思い入れがあり、柳ヶ瀬という文化があることを知りました。
金曜日の夜の開校式で火ぶたが切られる~共創劇場のはじまり
2月25日(金)、ついに本番が始まりました。夜18時から開校ですので、3日間ではなく、2.5日もない日程です。会場は、ロイヤル劇場ビルの3階、4階。
ここで初めて運営スタッフ、参加者、そしてユニットマスターのみなさんにリアルでお会いしました。
開校式では、スクールマスターの青木純さんのオープニングアクトに始まり、岐阜市長からの挨拶を経て、ついに担当する物件が発表になりました。
僕らユニットBは、元「柳ケ瀬あい愛ステーション」と称して、休憩所やイベント会場として利用されていた柳ヶ瀬中央に位置する物件です。株式会社江戸ッ子のビルで、あい愛ステーションになる前は、自社店舗を運営されていました。2年前にあい愛ステーションが閉鎖されてからは、空き物件となっていましたが、江戸ッ子さんのお店がカムバックする、という前提です。
(*具体的な内容は、割愛します。下のYoutubeで最終プレゼンが見れます。)
そして、幸か不幸か、ユニットBのユニットマスターを務めるはずだったリビルディングセンタージャパンの東野氏が体調不良で欠席となり、急遽いつもお世話になっているミユキデザインの大前さんがユニットマスターになることに。もともと仲良くしていただいている方なので、気負いせず取り組むことができたことは、ありがたかったです。
初日夜はとにかく風呂敷を広げ続ける
開校式が終わり、ユニットBのメンバーで改めて自己紹介。どんなバックグラウンドをもっていて、何をやっていて、どんなことで貢献できそうかメンバーに向けて紹介していきます。
その後、夜の柳ヶ瀬をぶらぶらしつつ、実際の物件を見に行きました。本来であれば、親交を深めるためにそのまま飲みに行くという流れになるでしょうが、今はコロナ禍。まん防のためお店自体空いているところはほぼありません。そのため、たまたまオープンしていた唐揚げスタンドでテイクアウトで会場に持ち帰り、食べながらいろんな案を出し合いました。Google ドキュメントで議事録を共有しながら、膨らませていくアイデア。今読み返してもほんとさまざまな意見が交わされたんだなぁと思います。
中途半端だったけど、なぜか評価された?ショートプレゼン
2日目の朝、昨夜の議事録を見返しながら、どういう方向に進んでいくのか考えていました。とはいえ、2日目にはとても重要な物件オーナーのヒアリングがありました。そもそもの株式会社江戸ッ子の歴史、このビルがどう使われてきたか、お店が戻ってきたときにどんなお店にしたいか、柳ヶ瀬という町に対する思いなどなどいろんなことを語って頂きました。
そのお話をもとに、昨夜の議論を突き合わせ、現実的にどのようなことが可能か、メンバーで話し合います。
16時45分から、ショートプレゼンと題して、中間報告会が企画されていました。このショートプレゼンでは、以下の要素を明確に示さなければいけません。
5つのポイント
- 物件概要
- オーナー情報
- エリアの定義
- エリアの近未来
- 物件の使い方
正直、オーナーのヒアリングを終え、ユニットメンバーで議論するも、方向性は共有できるものの、ポイントを押さえていこうとするとまとまりがない、という状況。特に、お昼後にユニットマスターもローカルユニットマスターである僕も2時間ほど抜けた時間があったのですが、もどって進捗を聞くと、それまで話していた内容から大きく変わっていました。
あれ?これ、まとめれるの?え?大丈夫?
そんな感じで、ユニットマスター大前さんも僕もとにかくなんとかまとめなきゃって必死になっていたと思います。(記憶がありません)
結局まとめきれずにできる範囲でスライドにして、ショートプレゼンに挑む。もうぼこぼこにされてもいい。
そんな感じで臨んだら、なぜか厳しい突っ込みもなく、むしろ高評価で拍子抜け。本当なら厳しめの突っ込み受けたら玉砕するほど脆いものだったので、メンバーみな「救われた」と思ったんじゃないかと思います。いや実はここで突っ込まないのは運営側の作戦なのか??そう勘ぐってしまいました。
ショートプレゼン後も、夜10時ごろまで具体性を持たせるための議論と、スライドのブラッシュアップの作業を続けました。
結局、だれがやるのか?現実解を模索し続ける
3日目、朝7時半に集合し、まとめの作業を続けました。最終日である3日目は、昼前のショートプレゼン、そして18:00~最終プレゼンというスケジュールが組まれており、それに向けて最後の追い込みです。この段階では、ある程度まとまった構想は、「誰のために、誰がやるのか」、物件だけでなく「そのエリアにどのような波及効果を生むのか」、そして現実的な「事業収支」に落とし込むことが重要になります。
チームではより具体性を上げるために、役割分担して、スライドのクオリティを上げていきます。イラストが得意な人がイラストを描き、図面が得意な人が図面を書き、写真が得意な人が写真を編集し、それぞれがもつスキルを最大限にチームのために発揮して作り上げていきます。
その中で、場所や人に「名前」をつけることでより愛着が増して、よりリアルになるため、ネーミング会議を行いました。みんなでネーミングを検討する中、裁縫・手芸の手のものづくりで人を惹きつけ、まちをまきこみ、賑わいを創出するという思いから、布で周辺の付近(ふきん)を変えていく、「HUKIN」という場所の名前が決まりました。そしてファンコミュニティを形成し、ファンベースの事業を行うことが決まっており、そのファンたちの愛称について、僕の中で「縫民(ぬうみん)」というワードが降りてきました。最初は、メンバーに失笑?を生んだわけですが、ジワリとみんなのなかでなじんできたのか、最終的にはHUKINや布を愛する人たちを縫民(ぬうみん)と呼ぶことが決まりました。
HUKINと縫民降臨も最終日昼前のショートプレゼンで落とされる
事業計画がまだ半ばではありましたが、昨日のショートプレゼンよりも具体性が増し、ネーミングも納得いくものができ、まずまずと思って挑んだ昼前のショートプレゼン。しかしここで撃沈しました。構想としてまずまずのところまで来ていたわけですが、収益構造の具体性が明確に示せず、そして肝心な「誰がやるのか」という部分が抜けていました。さらにダメ押しだったのがプレゼンターの資料棒読みな発表でした。とても楽しそうな内容なのに、もったいない!と、ユニットマスターのみなさんに厳しい指摘を受けたのです。
ローカルユニットマスターとしては、見守るしかないのですが、スライドの作り込みはやはり甘く、そしてプレゼン自体のアドバイス等はこれまでできていなかったので、致し方ない結果でした。
ここぞという時に皆の力を合わせまとめ上げ
ショートプレゼン後、ユニット内で漂う重い空気。それでもやるべきことをやらねばいけません。
確かにこれまで妄想⇒構想で具体的にしてきたわけですが、「誰がやるのか」という部分では、やはりみな第三者的にとらえていて、架空の誰かがやる事業として話をしていた感じがありました。具体的に自分たちがやるのか、事業主を募集する前提で持っていくのか、決めなければいけません。
腹をくくる。
ユニットBのメンバーが主体となり、協力企業としてユニットマスター大前さんのミユキデザイン、ローカルユニットマスターである僕のツバキラボ等が入り、具体的に進めていくという体制を確認し落ち着きました。
そして、収支計画では、当初「小さく初めて大きく育てる」というやり方で100万円の初期投資で見込んでいましたが、建築・不動産事業を展開しているユニットマスター大前さんが、ある程度資金投入してガツンと変えないと何も変わらない、と発破をかけ事業資金1000万円の初期投資、10年回収という事業プランが出来上がりました。
スライドは直前の直前まで皆が役割分担し、細かい調整を重ねていきました。
プレゼンは、もともと布や手芸が好きというユニットメンバーが担当することでより熱を込めたプレゼンができるようになりました。これも最終発表10分前に決まったことです。
ファイナルプレゼン~共創の集大成
さて、ファイナルプレゼンです。
不動産オーナーに対して、この実質2日間で練り上げてきたプランを発表します。岐阜市長も聞いています。そして、コロナ禍ということで、会場は制限されていましたがYoutubeにて配信もされていました。
こちらで配信されているのでぜひ見てください。ユニットBの発表は57分50秒あたりから始まります。
各ユニットの発表はどれも素晴らしく、それぞれのユニットメンバーの個性もいかんなく発揮されたものでした。
そして僕が担当したユニットBも、プレゼン時間を大幅にオーバーしてしまった点はありますが、高い評価をいただきました。不動産オーナーである株式会社江戸ッ子の社長も好評いただき、実施に向けて早速動いていきたいとおっしゃってくださいました。
2日間の苦労、朝早くから夜遅くまでゼロイチの産みの苦しみを体験しながらも、ユニットメンバーの力を合わせて成しえたことは、改めて振り返ると素晴らしい時間だったと思います。ローカルユニットマスターとしてどのように振舞えばいいのかわからないながらも、一緒に苦楽を味わえたことはとても良い経験でした。
スクールマスター 青木純さんの「コミュニケーションをあきらめない」に感動
スクールマスターを務めていただいたのは”まめぐらし”の青木純さん。池袋のまちづくりに率先して取り組んでこられた方です。最後、クロージングアクトということで青木純さんの講演がありました。(実はこのリノベーションスクール中、ユニットマスターの方々のライブアクトと称した講演があり、それぞれがどういう取り組みをしてこられたのか聞くことができました。その度に頭の中がグルんグルんするわけです。)
そして最後の青木純さんのクロージングアクト。タイトルが「私たちはコミュニケーションをあきらめない」。Youtubeでは1時間46分あたりから見ることができます。
池袋のまちなかで何を起こしてきたのか。何が起きたのか。紹介してくださいました。
諦めることは簡単です。そんなもんだと思ってしまえばそこまでです。でも、やっぱりこうしたい、こうしたほうがいいんじゃないかという思いはあって、それに対してどこまで愚直に向き合えるか。難しい問題はあっても、一歩を踏み出すことが大事で、やばそうだなとか失敗したなってことがあれば軌道修正すればいい。でも前に進み続けることが大事です。そう、あきらめないことなんです。
そんな熱いメッセージをいただきました。
みんなで生み出す共創のまちづくり。
ちょっと遠のいていたこの分野。最近、僕の中でもやりたいことはあっても、ちょっと引いていました。青木純さんのメッセージをいただき、また一歩踏み出してみたいと思いました。
最後に、リノベーションスクール@岐阜を運営していただいた岐阜市の担当者のみなさん、一般財団法人岐阜市にぎわいまち公社のみなさん、リノベリンクのみなさん、コロナ禍で調整がとても大変だったと思いますが、ありがとうございました。そして、スクールマスターの青木さん、ユニットマスターのみなさん、ありがとうございました。そして参加者の皆さんとは全員と話ができたわけではないですが、また岐阜のまちで会えるといいなと思ってます。3日間お疲れさまでした!