2016年末、ブログ記事の整理をしているときに、ある記事に目が留まりました。それは、2007年11月にシュン君という友人に会った時の記事です。お互いアメリカの大学へ留学をしており、そしてお互いウェブサイトやブログをやっていたことでつながったシュン君。あの時飲んだパブの雰囲気とシュン君の苦労話をふと思い出しました。もう9年も前のことです。
僕は勤めていたトヨタ自動車での仕事でなかなか結果が出せずもがいていたころ。彼はUCLAを卒業し、翌春から商社で働くことが決まっており、そのときは、ベンチャーのマザーハウスでインターンシップをしていた時でした。
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目次
秋葉原でアメリカ留学時代の友人に会う。確固たる意志をもつ強さに触れた夜。
東京モーターショーから秋葉原に向かいました。 東京での最後の予定はUCLAを卒業し、来年の就職前に、ある社会ベンチャー企 ...
そして、そのブログ記事をさっと読み懐かしい気持ちになったあと、記事の終わりに次の一文を付け加えました。
この記事で登場するシュン君はミニット・アジア・パシフィック株式会社の代表取締役CEOとして活躍しています。
そう、彼は、その後、紆余曲折ありながら常に上を目指し、現在は駅構内でよくみかけるミスターミニットを展開する「ミニット・アジア・パシフィック株式会社」の代表取締役CEOとして活躍しているのです。
そんなシュン君が今年に入りFacebookで本を執筆したことを載せていました。
「やる気を引き出し、人を動かす リーダーの現場力」
これは、ぜひ読みたい!ということで、さっそく購入させてもらいました。
(さすがに書評で「シュン君」はまずいので、迫氏とします)
迫氏の最大の武器である向上心
迫氏はアメリカ留学時代からブログを書いていました。そのブログには、とにかく向上心が半端ないほどにじみ出ている文章がちりばめられていました。今もそのブログは続けられていて、さっき見たら「本を出しました。」という投稿があったのでまだまだ現役です(笑)。
ちなみに、僕と会った時の記事もあるんですが、とにかく這い上がってやる!っていう強い気持ちが猛烈に出ているところがやっぱり彼らしい。
過去の記事をすこしでも読めば、迫氏がこれまでどれだけ真剣に物事を考え、自分を考え、人生を考え、仕事を考えてきたかが伝わると思います。物事に本気で向かい、常に最大の努力をする男です。
ずっと彼のブログを読んできた者として言えることは、彼の向上心が尋常じゃないくらい強いこと。そしてずっとブログを続けていることからもわかるように、言葉を届けることを惜しまないという姿勢です。
ありのままの体験談を等身大の言葉で赤裸々に、「リーダー論」「現場主義」「仕組み改善」「ビジョン」を論理的に
今や大きな組織のトップとなった迫氏が書いたビジネス書。「リーダー」「現場力」「人を動かす」「やる気」。タイトルにいれられたキーワードだけみてもこれは読みたいと思ってしまう。Kindle版が発売になってすぐに購入し、読んだのですが、これまでのビジネス書にはない感覚を覚えました。
それは、失敗談も笑い話も赤裸々につづる31歳の等身大の言葉とリーダー論と現場主義を論理的に解説し、仕組み改善の理路整然とした手順書としての文章が両立している本だということです。
ありのままのことを書くのはブログと変わりなく迫氏らしいところで、今回の本の中でもリーダーとして成長していく過程での失敗をたくさん紹介しています。それでも真摯に現場と向き合い、本当に求められていることは何かと常に問い続けたからこそ今の姿があり、この本を書くことにもなっている。等身大の言葉だからこそ、同世代として共感が持て、そして読みやすく、理解しやすい。
さらに、本を読んで感じることは、現場をリスペクトする心があちこちにちりばめられていて、まさに彼の思想がそのまま文章として、本として形になっていること。このような本を執筆できるということは、まさしく現場から信頼されている証拠だし、社員の人たちも誇らしいだろうと想像できます。
「自己成長」は経営者にもリーダーにも必要ない
さて、「自己成長」について。
上に書いたように、迫氏は学生時代から向上心がものすごく、そしてとてつもない努力家でした。しかし、彼がこの本で明かしているのは、その向上心こそがリーダーとして越えなければいけない点だったということです。つまり「自己成長」を追い求めることは、組織を率いるうえで求められていない、ということです。
マザーハウス時代、ミニットアジアパシフィックでのオーストラリアでの経験、日本での経験を通して、自己を捨て、本気でその組織と目指すべきゴールにコミットし、そしてサービス業として最先端である現場へのリスペクトを言動共に表現することを学んだ過程は、彼の心の内も含め、本を読んでいると疑似体験しているような感覚でした。とても説得力がある文章なのです。
ひとりですべてをこなしてしまうことよりも、相手を信頼し任せること、そして組織の仕組みとして100%発揮できるよう自分がやるべきことにコミットすることがリーダーの仕事だと書いています。
社会学から得た「仕組み」に問題の原因を求める姿勢
この本の中で繰り返し出てくるのが、諸所の問題の原因は「人」ではなく「仕組み」にあるということです。迫氏が大学で社会学を学んでいたことがその考え方に大きく影響しているそうです。社会学はさまざまな事象をまさに「社会」という仕組みで分析する学問であり、それが経営にとても役立っているとのこと。
スタッフがミスを犯しても、その人の経験不足や注意不足などといった人的な原因を問わず、なぜミスが起きたのか、さまざまな制度や体制を仕組みとして見直す、ということです。
これは、どの組織でもどの職場でも、できているようでできてなく、すごく役に立つ発想だと思います。
現場リスペクトだからできる絶妙なたとえ話
本全体を通して、たとえが上手だなぁと感じました。
「仕組みづくり」のはなしが「畑づくり」だったり、「評価基準」のはなしが「幕の内弁当」「唐揚げ弁当」「のり弁」だったり。
なるほど!って膝を叩きたくなります。
ビジネス書で専門用語が多く出てくる本はたくさんありますが、さすがわかりやすく伝えることを常に実践している迫氏だからこその表現ではないでしょうか。現場の社員たちに伝える際も様々なたとえ話やわかりやすい言葉を選んで説明をする、と本にも出てきていますが、まさにそういうことなんでしょう。
現場主義だからこそ、知識を振りかざすのではなく、同じ目線で共に価値を生み出そうという姿勢を言葉の選び方からも実践する。
頭でわかっていても、いざできているかというと、なかなかできないところです。
なぜビジョンは重要なのか。
本の最後の章は「ビジョン」についてです。
通常経営を語るうえで「ビジョン」から入る人・本が多いですが、迫氏は最後に「ビジョン」を持ってきています。これは、この本が右肩下がりの組織の立て直しの実践例だからこその構成だと思います。
つまり、ミニットアジアパシフィックがすでに組織として存在していたが、その中身は課題山積の状態だった。目の前にある課題を解決するために現場の力を最大限に発揮できる仕組みに作り変える必要があった。そのためにやったことがリーダーとして徹底した現場重視の策だったわけです。そして、組織の膿をすべて取り除いたからこそ、初めて経営者として本来やるべきビジョンの設定に取り掛かることができた、わけですね。
そして迫氏は経営者としてやるべきことは課題解決による延長線上の成長をめざすのではなく、組織を別(上)のステージに持ち上げることであり、つまりはそれが「ビジョン」を掲げることだと言っています。
しかし、迫氏自身も初めからそこに気づいていたわけではない、と書いています。これも、経営者として試行錯誤する中から、そしてメンターであるファミリーマート社長の澤田氏からのアドバイスで理解できた、とのこと。
続けて解説されているビジョンと戦略と戦術の違い。さらにビジョンのトライアングルなど、迫氏の経験から導き出された言葉はやっぱり理解しやすい。
このビジョンを最終章に持ってきたところに、迫氏のこれまでの努力とこれからの野心が表れているように感じるのは僕だけでしょうか。
人を率いる立場にいる人にはぜひ読んでもらいたい
この本は、人を率いる立場にいる人にぜひ読んでもらいたい。
組織を変えることはその権限が与えられなければ、現実的に難しいと思いますが、まずは自分のチームで実践してみるなど小さなところから始められることは多いと思います。
僕自身教職にいるわけですが、教員と学生の関係でも、非常に役立つ記述がたくさんありました。教育現場ではまさに学生とのやり取りが現場です。少しでも良い教育を実践するためにも、その現場やリーダーシップを意識してやってきたところはありますが、この本に書かれていることと照らし合わせてみると、まだまだ全然だったなと反省しています。
あの時ああしていれば、と思ところは多々ありますが、過去はもう変えることはできないので、これから先に活かしていきたいと思います。
迫氏がマザーハウスで必死に上を目指していた時代からファンドに移り、そしてミニットアジアパシフィックに飛び込み、まさに現場と奮闘・共創し、現場リスペクトの実践からリーダーシップを発揮していった迫氏のこの経験を1冊の本として読むことができたことはすごくよかったと思います。