地域材流通 木材

地域材流通は動き出す:神戸市、六甲山の木材がまちを潤すか

2020年9月18日

神戸市 六甲山 SHAREWOODS HASE65 地域材

先月、飛騨市の「広葉樹のまちづくりツアー」に参加して、その概要をブログにまとめましたが、先日そのまちづくりツアーの主催側だった株式会社飛騨の森でクマは踊る(通称:ヒダクマ)の松本剛さんと一緒に、神戸の地域材流通・活用の仕組みを見に行こうということで、視察に行ってきました。

神戸市の取り組みについては、シェアウッズの山崎さんが行政と民間を含め各プレーヤーのつなぎ役となり、仕組みを作ってきています。その話は以前山崎さんから直接お話を聞いてきましたが、いま全国的に地域材を活用していこうという動きが出てきている中、一度神戸の現場をこの目で見ておくべきだと考え、ヒダクマの松本さんを誘って、行くことになりました。

今回の話を快く引き受けてくださったシェアウッズの山崎さんが各方面段取りをしてくださり、とてもいい視察が実現いたしました。本当にありがとうございます。

神戸市の地域材活用は「六甲山森林整備戦略」から始まった

神戸市 六甲山 SHAREWOODS HASE65 地域材 山崎正夫

神戸市の地域材活用が動き出すきっかけとなったのが2012年にまとめられた「六甲山森林整備戦略」という神戸市の計画です。この中で、森林整備の目的以下のように掲げています。

目的

「都市山」六甲山と人の暮らしとの新たなかかわりづくり
-六甲山の「恵み」を「育てる」・「活かす」・「楽しむ」仕組みづくり-

この目的の細かい項目の中で「市民の暮らしと六甲山の新しい関係を再構築」、「持続可能な管理システムのための戦略的ゾーン設定」、そして「新しい六甲山の価値を創造する技術開発と仕組みづくり」の3つが掲げられています。

持続可能社会を目指す中で六甲山との関係を見直そうという神戸市の意気込みがわかります。

そしてこの戦略の基本的な考え方として、「市民・企業・行政等の協働による六甲山の森林を支えるしくみづくり」があり、この基本的な考えに基づいてまさに今の神戸市の地域材活用・地域材流通ができてきていると考えれば、やはり、いかに行政の方針設定が重要かがわかります。

行政側が高らかに理想を求め、目的を掲げて立派な戦略を立て、なかなか実行されずに忘れ去られていくケースもありますが、神戸市ではばらばらだったピースがひとつ、またひとつとつながっていきます。

時代の嗅覚が鋭いシェアウッズの山崎正夫氏

神戸市 六甲山 SHAREWOODS HASE65 地域材 山崎正夫

そのピースをひとつひとつつなげていった立役者がシェアウッズの山崎正夫さんという方です。

僕は山崎さんを、またはシェアウッズをずっと存じ上げていたのですが、実際2019年の岐阜県立森林文化アカデミーの公開講義で初めてお会いしました。その後もWoodworker's Meeting2019でご一緒することもありました。

Woodworker's Meeting 2019 木工家 吉野崇裕 島崎信
木工家は子どもの憧れの職業になれるか?八ヶ岳で開催されたWoodworker's Meeting 2019に参加してきました!

春から夏へ季節が移る5月、日本を代表する木工家の一人、吉野崇裕氏から木工家ネット(多数の木工家が参加するメーリングリスト ...

木工家ウィークNAGOYA」では、今年のフォーラムを「地域材x音」をテーマにして山崎さんを登壇者の一人としてお越しいただくことも計画していましたが、今年はコロナで中止となってしまい、実現しませんでした。

地域材と地域の人をつなぐカホンプロジェクト

この「地域材」というテーマで必ず名前があがるのが山崎さん。

神戸市 六甲山 SHAREWOODS HASE65 地域材 山崎正夫

その原点は、各地の木材を使ってカホンを作ろうと全国で展開した「カホンプロジェクト」です。当時は「オスモ」というドイツ製のオイル塗料で有名な「オスモ&エーデル株式会社」でサラリーマンをしていた山崎さんは、地域の木材を地域の人たちが使うきっかけになるような取り組みを考え、2009年「カホンプロジェクト」を始めます。

山崎さんのnoteの文章をお借りすると、カホンプロジェクトは「日本全国の森林にある地域材を地域の人たちの暮らしに届けるための仕組みづくりをお手伝いするための活動」と定義しています。地域に木材はあるのか、地域にそれを切る人はいるのか、地域にその丸太を製材する人はいるのか、地域にその板を加工する人はいるのか、地域にその材料を使いたい人がいるのか、そのひとつひとつをつなぎ流れを生み出す。そこから新しい何かが生まれるきっかけを作る、それが「カホンプロジェクト」なのです。

11/10-13までの3日間、五島列島の北部エリアにある新上五島町という町に滞在し、カホンプロジェクトを遂行してきました。 SNSというツールで普段発信していると特に説明不足になりがちで、それって何をしているの?仕事?目的は?みたいなハテナマークがたくさんついている人がいることが色々な誤解を生むことにつながっているようで(僕のことに限らず世間一般によくある件として)、カホンプロジェクトという活動について少し説明が必要かと思い書いてみます。 僕たちカホンプロジェクトは、ワークショップを開催して小商いをする...

シェアウッズの設立

もう10数年前から「地域の木材」と「地域の人」をつなぐことを考え、そして実行に移してきた山崎さん。カホンプロジェクトは、当初サラリーマンをしながらの週末活動でしたが、岡山県西粟倉村での地域おこし協力隊を経て、その後独立し、シェアウッズを立ち上げます。もう名前が秀逸ですよね、シェアウッズって。

無垢材でリノベーションしたい、無垢の家具を探している、DIYで使う木材を探している、変わった木、めずらしい木を探している、国産材で家を建てたい、木を使った環境教育について調べている、木で楽器をつくりたい、木のことならなんでも革命的なウッドデザインのプラットフォーム「SHARE WOODS」

神戸市 六甲山 SHAREWOODS HASE65 地域材

オスモ時代の経験から、シェアウッズでは木材商社のような仕事をしながら、神戸の木材、六甲山の木材を活用するための仕組みづくりに取り組み始めます。そして、「六甲山森林整備戦略」を策定した神戸市の担当者と知り合う機会があり、そこから地域材活用の事例が生まれていきます。その出会いも偶然であり、必然であったと思います。

山崎さんと接していると、いつも自然体であることに気づきます。気張ることもなく、誰と接していても穏やかなのです。その人柄が山崎さんの周りにさらに人をひきつけ、不思議とつながりが生まれていくんだと思います。

そして、僕は山崎さんがとても鋭い「時代を感じる嗅覚」を持っているように思いました。もちろん感じたことを実行に移す実行力もすごいのですが、無意識のうちに時代が求めているものをかぎ分け、行動に移すという才能があるように感じました。それを自然体に、穏やかにされるんだから、それはそれはすごいことです。

地域材活用事例が生まれるその裏で

人がつながり、そして共通の目的があればことは動き始めます。シェアウッズとしての動きから、2015年神戸市公園緑化協会と神戸スマイルプロジェクトとで「Kobeもりの木プロジェクト」という団体もつくるなど、次第にかかわる人たちが多くなっていきます。「六甲山森林整備戦略」に基づき、地域材の活用が活発になっていきます。

神戸市 六甲山 SHAREWOODS HASE65 地域材

六甲山から出てきた木材を使い、市役所ロビーのベンチを制作したり、飲食店のカウンターの一部になったり、兵庫県林業会館のスツールを作ったり、公園など屋外に設置できるシビックパレットになったり。

神戸市 六甲山 SHAREWOODS HASE65 地域材

神戸大学で切られることになったエノキを地元のオーダーキッチンのメーカーが活用する事例も生まれました。

神戸市 六甲山 SHAREWOODS HASE65 地域材

兵庫県の木が「クスノキ」ということで街路樹でもクスノキが多く植えられているそうですが、その街路樹が大きく育ち伐期を迎えています。そのクスノキを活用して名刺を作ったり、ウッドチップをつくったり。

ひとつ、またひとつと事例は生み出されていきます。

しかし、その目に見える事例のうらに膨大な苦労が見え隠れします。どういうルートでモノを運び、誰がどう仕事すればいいか、そんな型がない中で事を動かすのはそれはそれは大変なこと。ましてやそれが木材となれば、物理的な場所が多く必要で、時間軸も長い。

それでも関わる人たちをつなぎ合わせるものは何か。やはりそこには「地域の木材を使うこと」に対する意義を言葉にせずともそれぞれが感じており、その思いが原動力となっていると思います。

地域材流通のためのピース

地域材活用と地域材流通とでは、似ているようで違います。

地域の材料を使うことであれば、単発のプロジェクトでもできます。それはイベントに近い感覚でしょうか、勢いがあればなんとかできてしまう。その単発プロジェクトが継続的なプロジェクトになったとしても、対象となるもの・人・場所などが固定であれば、定義は「地域材活用」です。カホンプロジェクトも地域材活用の事例であり、例えば僕が関わった美濃加茂市の「アベマキ学校机プロジェクト」も毎年行われる行事になっていますが地域材活用の事例です。

「地域材流通」とはなにか

地域にある樹が、定期的に伐採・搬出され、常にどこかで製材され、ストックされ、そして誰でも購入できる状態であれば、「流通」しているという表現が可能になるのではないでしょうか。広く広域的に広がる必要はないですが、なにか限定的なものに使うわけではなく、誰でもアクセスでき、何に使っても良い。そういった状態を実現するための仕組みが必要です。

飛騨市の広葉樹の流通を試みるプロジェクトを先月学びに行ったわけですが、それも飛騨市内外の人たちに常に飛騨市産広葉樹をどのように使ってもらえるか、そのための資源量調査であり、広葉樹施業であり、在庫管理であり、そして何よりもかかわる人たちのネットワークです。

それが神戸でもその仕組みづくりが進んでいました。

神戸市の地域材流通

神戸市 六甲山 SHAREWOODS HASE65 地域材

神戸市がほかの自治体と大きく違うことは、この地域材に関わることを担当しているのが「農林」とか「林政」といった部署ではなく建設局防災課という部署だということでしょう。もともと産業として林業がある自治体ではどうしても発想の起点が「林業」という産業をどうしようかということになっていきがちですが、それがない神戸市は、市の担当者の考える起点、行動する起点が違います。六甲山という都市山をどう市民に、まちに活かせるか、という「まちづくり」の発想になります。だからこそ生まれた「六甲山森林整備戦略」だったといえます。

神戸市 六甲山 SHAREWOODS HASE65 地域材 山崎正夫

クラウドファンディングサイトより(https://camp-fire.jp/projects/view/19079)

そして、地域の樹を使うとなると、それを切る人、運ぶ人、製材する人、加工する人、売る人、使う人が必要となり、さらには各工程で丸太や木材を置くための場所も必要になります。そして何よりもそれら全体を見渡せる人が不可欠です。

山崎さんは、それらを時間をかけて、ひとつひとつの拠点となる場所をつくり、つなげてきました。

神戸市 六甲山 SHAREWOODS HASE65 地域材

製材は、株式会社三栄という神戸市内で唯一の製材所が担っています。かつては多くの製材所が立ち並んでいた神戸でも、時代と共に消え残ったのがこの三栄でした。今は「北の椅子と」というヴィンテージインテリアのショップとカフェが有名ですが、そのお店の定休日に製材所として製材機が稼働します。

神戸市 六甲山 SHAREWOODS HASE65 地域材

僕も5年前に「北の椅子と」に行ったことがありますが、まさかこんな形で再訪することになるとは思いませんでした。

「北の椅子と」に行ってきました。

前から気になっていたアンティーク家具のお店が神戸にあります。「北の椅子と」というちょっと変わった名前。 なぜ気になってい ...

三栄の服部社長は、「神戸は山と海が近い。山がきれいにならないと海もきれいにならない、ということがわかりやすい。次の世代に引き継いでいくためには、地元の木材を使っていくことは大事なこと」とおっしゃっていました。

神戸市 六甲山 SHAREWOODS HASE65 地域材

一方で木材を加工する工場は、もと造船所として使われていた「マルナカ工作所」の工場を引き継ぐことになります。材料をストックする場所、加工できる場所を探している中、マルナカ工作所が廃業することを知り、そのコミュニティを引き継ぎ、ものづくりの拠点としたいと動きました。

神戸市 六甲山 SHAREWOODS HASE65 地域材

クラウドファンディングにも挑戦し、見事達成します。もともとの人脈もありますが、やはりクラウドファンディングで多くの人にPRできたことが活動により推進力を与えたのだと想像します。

六甲山の手入れの為に間伐された木材を使ってテーブルや椅子を自作で作ったり、ものづくりが好きな同士が交流を持てるコミュティづくりをします。講師はプロの家具作家や職人、リノベや改修専門の建築家などを連ね、個人や店舗オーナーなどが気軽に相談できハーフビルドやセルフビルドの支援を行える施設を作ります。

さらに、神戸市の市有林や街路樹などは行政側の財産となるため、勝手に使うことはできません。そのため神戸市ではこれらの材料を売るための仕組みもつくりました。

こうして必要なピースが少しずつはめ込まれ「流通」という仕組みづくりが前進していきます。

課題は土場

今の課題は何かという問いに、山崎さんは「材料をストックするための場所がない」という点をあげられました。常に材料がストックされている状態を目指すとき、やはりどこかに置き場が必要になってきます。もともと倉庫を探しているときにであった「マルナカ工作所」もものづくりの拠点として木工房として機能しています。丸太の状態、または板の状態である程度ストックできる場所は流通を考えるうえでは重要なポイントです。

山とまちと海の距離感と規模

今回神戸を視察させていただき、感じたのは、地域材流通として神戸のポテンシャルの高さです。

山とまちとの距離が近く、さらに海もあるという自然環境のつながりがわかりやすさがあること。そして140万人の人口規模。経済の規模。これらがそろっている中で、プレーヤーもつながり、行政も民間も地域の材料をつかうことに積極的になっていること。

課題があれば、関わる人たち、行政も民間も一緒になって解決策を探っている、神戸のみなさんは所属や立場が違っても互いを信頼している良きチームのようにみえました。

そして中心にいるのが山崎さん。「北の椅子と」でランチをしているときに、ふらっとカフェのオーナーが山崎さんに寄ってきて、「こういうことで困っていて、今度こういうことできないかなぁ」と相談していました。こうやって気軽に相談できる山崎さんの人柄が、やはりこの神戸の動きを生み出しているんだな、と感じました。

この神戸での地域材の活用、そして流通がどのように神戸のまちを潤していくのか、これからがとても楽しみです。

飛騨市 広葉樹 まちづくり ヒダクマ 流通 FabCafe
地域材流通は動き出す:飛騨市・広葉樹のまちづくりツアー2020に参加して

広葉樹で木質化した飛騨市役所応接室 8月9日、10日の2日間で開催された「飛騨市・広葉樹のまちづくりツアー2020」に参 ...

おすすめ関連記事

-地域材流通, 木材
-,

Copyright© Simplife+ , 2024 All Rights Reserved.