地域材流通 木材

地域材流通は動き出す:飛騨市・広葉樹のまちづくりツアー2020に参加して

2020年8月14日

飛騨市 広葉樹 まちづくり ヒダクマ 流通 FabCafe

広葉樹で木質化した飛騨市役所応接室

8月9日、10日の2日間で開催された「飛騨市・広葉樹のまちづくりツアー2020」に参加してきました。

このツアーは、飛騨市と株式会社飛騨の森でクマは踊る(通称:ヒダクマ)が主催しており、同市が取り組む広葉樹流通の仕組みづくりを多くの人に知ってもらうきっかけを作るためのもので、2019年から開催しています。

2日間の日程で、飛騨市の取り組みを現場を見ながら、かかわる人たちの生の声を聞きながら学べるツアーです。

今年は2回目の開催で、参加者は7名で、大阪、三重、愛知、岐阜から集まっていました。みなさん広葉樹、国産材といったテーマに関心を持っている方ばかりですが、オフィス家具の商社に勤めている方や木工家具工房を主宰している方、本業とは別に準木材コーディネーターをお持ちの方などでした。

広大な広葉樹林から産業を

まずは飛騨市役所にて、飛騨市役所農林部林業振興課の竹田慎二さんがこれまでの取り組みの概要と現状、そしてこれからの取り組みについてレクチャーをいただきました。竹田さんは、飛騨市が広葉樹の産業を作っていこうと動き出すきっかけを作り、中心となって仕組みづくりをされてきた、まさに立役者です。

ツアーはその後製材所や木工房を訪問し、2日目は実際の森で木を見ながら広葉樹施業の話を聞き、最後にヒダクマにて広葉樹の高付加価値化の取り組み内容を聞きました。

竹田さんのレクチャー内容をベースに、2日間見聞きしたことを織り交ぜながらまとめていきたいと思います。

豊富な広葉樹資源?!

飛騨市 広葉樹 まちづくり ヒダクマ 流通 FabCafe

飛騨市森林組合 新田さんによる広葉樹の選木育林施業の解説

飛騨市は、93.5%が森林で、そのうち68%が広葉樹だそうです。飛騨市の面積は、792.5km2ですので、森林面積は737km2で、約500km2が広葉樹という計算になります。5万ヘクタール。正直全然ピンときませんので自分なりに換算してみました。

500km2 = 東京ドーム 10694コ = 山手線 7.2464 = 琵琶湖 0.75

琵琶湖の75%ぐらいがすべて広葉樹の森という規模です。

これまで全く価値とされてこなかったこの豊富な広葉樹を価値に変えることができれば、飛騨市にとって大きな希望になるのではないか。そこが当時企画課という部署にいた竹田さんが広葉樹の取り組みを始めたきっかけでした。

国産広葉樹の実情

しかし、価値とされてこなかったことにはそれなりの理由があるわけですし、そしてその事実をひっくり返すことは容易ではないのです。

木の業界にいない人は、針葉樹、広葉樹の違いすら分からないと思いますが、針葉樹は主に建築に使われ、広葉樹は家具などに使われます。針葉樹はまっすぐ育ち、管理もしやすいことから戦後の復興需要などもあって大量に全国各地で植林されました。一つの大きな産業となり、そのためさまざまな施業技術、管理技術も発展します。

しかし、広葉樹は枝は四方にぐにゃぐにゃ伸び、成長も遅いため、「生産」という意味では、管理が非常に難しいのです。そのため、広葉樹の生産や流通というのは、ほとんどが北海道や一部の東北エリアでしかなされていません。それも植林して材料を生産するというものではなく、自然の森林を切り開いた結果として伐採される木材です。広葉樹林の施業としては国内に技術がないのが現実です。そして様々な理由があり、その国産広葉樹は現在価格が高騰しています。

そんな現状もあり、国内の家具メーカーのほとんどは9割以上を外国産の広葉樹に頼っています。

では実際、広葉樹は何に使われているかというと、伐採される広葉樹のほとんど(95%)が安価なチップ材(紙の原料やキノコの菌床)として処理されています。その理由の一つは、安定した品質で、一定の寸法で材料をそろえることができないからです。現在広葉樹は二次林、三次林といった人の手が入った後に更生した森が多いですが、そこにある樹木の多くが小径です。20センチ~30センチといった小径の丸太では、家具などに使うことが難しく、価値がないとされています。そこに手間をかけても意味がないので、ほとんどが雑木と称され、チップとされているのです。

かつては薪炭として人々の暮らしの中でエネルギーの核となっていた広葉樹は、現在、まったくの「負の財産」となっているのが実情です。

広葉樹に価値をつけるための歯車

竹田さんは、当時株式会社トビムシという、森林価値を高め持続可能な地域社会を築くためにコンサルティングや地域商社設立運営の事業を行っている会社にいた松本剛さんに相談します。松本さんは、つながりがあったデザイナーなどのネットワークを作りクリエイティブディレクションを行う株式会社ロフトワークに声をかけ、2015年に株式会社飛騨の森でクマは踊る(ヒダクマ)を3者で設立するに至ります。

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ヒダクマは飛騨市産広葉樹の高付加価値化に果敢に取り組む

そして、広葉樹から産業を生み出すための仕組みづくりを始めます。

林業の世界では、広葉樹は「雑木」であり価値がないとされているため、林業関係者の反応は冷ややかだったそうです。それでも研修会を開いたり、関係者との意見交換を繰り返しながら、機運を醸成させていきます。

そしてヒダクマは海外の学生や都市部の建築家・デザイナーを積極的に飛騨に呼び込み、広葉樹の新しい活用方法を共に考える種まきをしていきます。

それらの活動が徐々に機能し、歯車がかみ合い始め、やっと産業を生むための下地ができてきたのが、今のタイミングなのです。

まさに、いろんなタイミングがあり、かかわる人たちの化学反応がおきた結果だといえます。

面積は大きいけど、人がすぐつながれる小さな町だからできる広葉樹のまちづくり

林業の世界では木材の一連の流れを川の流れで例えることが多いですが、一連の流通をみたときの川上、川中、川下のそれぞれの課題は次のようにまとめられていました。

取り組むべき3つの柱

  • 川上:飛騨市産広葉樹の安定供給
  • 川中:需給の最適化を図る新たな流通システムづくり
  • 川下:多様な分野での広葉樹活用

今年、林業事業体などの川上、製材業者の川中、そして木材加工業者などの川下すべてが参加する「飛騨市広葉樹活用推進コンソーシアム」が設立されました。広葉樹の流通における上記の課題を全体共有して解決策を協議し、より具体的に推進していく体制が整ってきたということです。

また岐阜県立森林文化アカデミーと包括連携協定を結び、担い手育成にも着手しました。そして、ヒダクマを中心に小径で価値がないとされていた広葉樹に価値を生むための商品開発なども進めています。

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広葉樹活用コンシェルジュ 及川さん

これらの取り組みの中で興味を持ったのは、川中の流通システムづくりとして取り組まれている「在庫の見える化」と「積極発信による使い手とのマッチング」です。飛騨市で広葉樹活用コンシェルジュとして活動されている及川幹さんが説明してくださったのは、製材所と共に在庫をストックし流通の拠点を作り、在庫のリスト化を進め、それらを発信することで使い手とのマッチングを促進する取り組みです。

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Kino Woodworks:地元の材料を普通に入手できるようになった

大量に材を消費する家具メーカーではまだ難しいことですが、木工所のような小さな場所であれば、多少使いづらい材料でも小回りが利くのでうまく使いこなすことができます。見学にいった飛騨の木工房Kino Workshopでも、多少難がある材料でも使い方次第で活用できるというお話をされていました。

地元地域の森林を活用していこうとする飛騨市の取り組みは、これから全国的にもますます注目されていくに違いありません。




地域材流通の仕組みを作るうえで大事なこと

飛騨市の取り組みは、地元に木工産業基盤があり、そして材料となる広葉樹林が豊富にあるという前提で始まっています。ですので、地元の広葉樹林にある資源は「質」「量」という観点で木工産業には適さないという大きなハードルをいかに越えていくかが課題です。

一方で僕が考える地域材流通は、産業もなく、豊富な資源がない、けれど小さなコミュニティレベルで回せる小さな流通ですので、飛騨市とは規模が違いすぎるのですが、飛騨市が取り組まれてきた、関係者を巻き込む方法は勉強になります。

現在飛騨市は、関係者がフラットに議論して取り組んでいけるコンソーシアムという枠組みを作ったわけですが、それまでは地道に勉強会を開催し、いろいろな実験的な取り組みをして、試行錯誤を続けてきました。思いが熱い人がいなければ事は始まりませんが、その熱を伝播させていく動き方ができるかどうか、その熱を継続し、そして熱を持った人がその場を離れてもその熱を保温できる仕組みができるかどうか。行政は行政の役割を、そして民間は民間の役割を。片方だけではやはり難しさがあるでしょう。

その仕組みとして、行政と民間、民間の中でも「従来」と「新しさ」を織り交ぜ、共通ビジョンを掲げ、フラットな土俵で動ける仕組みというのは重要です。これらは仕組もうとして仕組めるものでもなく、政治的な面も含めていろいろなタイミングが合い成して出来上がった成果ということも今回お聞きしました。

ヒダクマのような会社が飛騨市にできたこと、そしてコンソーシアムのような組織がうまれたこと。地方の小さなまちが故、各プレーヤーが持っている漠然とした思いや疑問、将来不安などがあることで、共通認識が得られやすかったのもあるでしょう。だからこそ、このような情報や人の集積となりうる「場」の力がとても大事なんですね。

地域材流通:各地の取り組みを共有したい

これから産業ではない場所からうまれる地域材流通というのは増えていくと思っています。その中で、先ほども言いましたが、僕はコミュニティレベルの流通を考えています。ほかの地域ではもう少し規模が大きい形に取り組んでいる人もいます。そして飛騨市のように豊富に資源があるところで従来の産業と結び付けようと活動している地域もあります。

それらがお互いの取り組みを共有できるようにしていきたいと思っています。

長くなりましたが、
飛騨市の広葉樹のまちづくりツアーは秋にも開催予定です。

勉強したい方はぜひ↓

飛騨市が取り組む「広葉樹のまちづくり」の現場をご覧いただくツアーです。

ちなみに、神戸市の地域材活用も素晴らしい!ぜひ下の記事もお読みください↓

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