僕は、子育て真っ只中であることや現在学校に勤めていること、そして木育などにかかわっていることからこれからの時代を生きていく子供たちをどのように育てていくべきなのか教育者として親として非常に「子育て」について興味があります。そんな中、同僚の一人が猛烈に推薦していた本を借りて読んでみたら、ものすごくすばらしい内容で、これは何度も読みたくなると思い、購入した本があります。
それが、天外伺朗(てんげしろう)さんの”「生きる力」の強い子を育てる”という本です。
天外さんは、ソニーの上席常務で犬型ロボットAIBOなどの開発を指揮した方であり、数多くの”エリート”たちの盛衰を見てこられた方です。今、そしてこれからの時代は学力ではなく、「生きる力」の強い人が求められると言いきっており、この本の中で、その「生きる力」を育むためにはどうすればよいのか、日本の現在の子育ての常識や学校教育がいかに子供たちを押し付け、「生きる力」を育むことを阻害しているかを、論理的に述べています。
そもそも「生きる力」ってなんだろう?
「生きる力」は何か、と問われて、一言で言い現わせる人はいないと思います。感覚的にバイタリティや自己肯定感など単語は思いついても、じゃあそれってどういうこと?といわれるとう~んとなってしまう。天外さんは生きる力の定義で18のキーワードを述べていますが、この本の中に非常に簡潔にまとめた文がありました。
大地をまっすぐ二本の足で踏みしめ、自らの存在を肯定し、自らを常に磨き、自己実現へ挑戦し、明確な意思を持って、物事を前向きに解決するように積極的に行動する子。大自然の畏敬し、周囲と調和し、全体の中で適切で調和的な立ち位置を確保し、人生を楽しむことができる子。感受性と独創性が豊かで、好奇心が旺盛で想像する喜びを知っている子(P16)
こうやって読んでみると、確かにこういう子がいたら強いかもしれない、、、と思います。でも実際そんな子はいるのでしょうか?もしいたらどうやってそういう子に育てることができるのか。
すべての親が理解すべき「バーストラウマ」
この本の中で述べられていることは、非常に奥が深く一度読んだだけではその真髄まで理解できないと思います。ただ、僕が非常に興味を持ったこととして、人間の本質を極め人としての道を説くキリストや仏教などの宗教と、人は人らしく、子どもは子どもらしくのびのびと育つことをすすめるモンテッソーリやシュタイナーなどの教育法、そして歴史とともに深まっていった哲学の思想は奥深いところで結局同じことを説いていることです。天外さんはそれを理論的に整理して紹介しているので、なるほど、ぽんっと膝をたたきたくなります。
そして、僕たち子育て世代にとって非常に重要であろう2つの考え方をこれでもかというくらい解説しています。
一つは、人は生まれながらにとてつもない傷を負っているとする「バーストラウマ」です。「バーストラウマ」は、生まれながらに負う傷であると同時に、生きてくうえで体験するさまざまな苦痛の根源でもあります。
仏教の四苦八苦の四苦は生苦、老苦、病苦、死苦ですが、老、病、死は理解できても生については謎です。赤ちゃんが生まれれば誰でも喜ぶことであるからです。しかし、仏教では、子宮という赤ちゃんにとっての楽園から、いきなり陣痛が襲い狭い産道を通って産み落とされ、母親と強制的に分離する体験はとてつもない苦だとしています。キリスト教では「エデンの園」のリンゴのエピソードがそれにあたるそうです。
この考え方から子育て中の親が学ぶべきことは、赤ちゃんは誕生した瞬間からとてつもない苦しみを負っている存在だということです。そして、天外さんが訴えていることは、そのバーストラウマをいやすために必要なのは「無条件の受容」だといいます。
悪い言動、嘘、困った性格なども含めて、ありのままのその子の存在を受容するということだ。(P101)
バーストラウマを癒すことは、子どもたちの自己肯定感につながります。自分が自分でいられる安心感、それが大事だということです。そう考えると、あらゆるしつけ、強制などは見直さなければいけません。このブログでも以前、ヨメがどんなに忙しくても子どもをぎゅっと抱きしめる行動「こころの充電」を紹介しました。あの「こころの充電」はまさにこのバーストラウマを癒すことにつながっていたんだと、本を読んで納得できました。
「生きる力」を引き延ばす「フロー」
そしてもう一つ重要な考え方に「フロー」というものが紹介されています。
フローとは、「夢中になって、我を忘れて、何かに取り組んでいる状態」をさす。(P69)
子ども時代に、たっぷり「フロー」体験を積んだかどうかで、その人の一生は大きく変わる(P72)
フローをたくさん経験した子は、内発的動機に基づいて自ら積極的に行動に移すようになり、問題を自ら解決していく力を身につけます。しかし、通常のしつけや、教育課程では子どもたちにさまざまな縛りを設け、それゆえ欲が絡み、人の目を気にして「外発的動機」で行動をしてしまいます。いかに、この「フロー」を体験させることが大事かについては、ぜひ本を読んでみてください。
では「フロー」を体験させるために、親は子どもに何をさせればいいのか、ということですが、答えは非常にシンプルです。とことん遊ばせることです。邪魔をせず、好きなことに没頭させることなのです。このフローをたっぷり体験した子たちの事例として、この本では、アメリカのサドベリースクールをはじめさまざまな例を紹介しています。それを読むと、フロー体験をたっぷりした子どもたちがその後どのようになっていくのかわかります。
哲学的であり、ラディカルな部分もあるが、子育てに非常に参考になる一冊
正直、このブログ一記事でこの本をぎゅっと要約することは難しいです。ですのでぜひ手に取ってじっくり読んでほしいと思います。宗教やさまざまな哲学的要素、教育理論など出てきますが、非常に簡潔にまとめられています。一部天外さんの独論でラディカルな部分もありますが、それも含め、「生きる力」を知り、自分の子どもにどう接していくべきかを考える事は重要だと思います。そして、お父さん、お母さんどちらかでなく、二人で読んで、話し合うこともとても大事なことだと思います。