日本 木工

岩手県 洋野町にある工業デザイナー秋岡芳夫が生んだ一人一芸の里「おおのキャンパス」に行ってきました。

2016年11月13日

岩手県 洋野町 大野 おおのキャンパス 秋岡芳夫

みなさん、工業デザイナー秋岡芳夫(1920-1997)という人をご存知でしょうか?

そもそも工業デザイナーという職業自体、今の時代ありませんよね。ちかいところではプロダクトデザイナーとなりますが、工業という言葉がついているというところで昔の人、と言えるかもしれません。彼がデザインしたものをデザイナーが誰か知らなくても目にした人は多いと思います。非常に多くのものをデザインされていますが、特に三菱鉛筆のUniなんて使っていた人もいるでしょう。

しかし、秋岡芳夫さんは立ち止った工業デザイナーでした。そして「消費者から愛用者になろう」と呼びかけ、利潤ばかり追求する大量生産大量消費の時代に警鐘を鳴らし続け、そして新しい暮らし方、生き方、価値観を提示し、実践した人でした。

彼の呼びかけで40年以上前に始まったグループ モノ・モノが拠点としていた東京中野のモノ・モノもリニューアルされ、今年1月に訪問しました。その時のブログでも秋岡芳夫さんのことを書いています。

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一人一芸の里 大野

岩手県 洋野町 大野 おおのキャンパス 秋岡芳夫

立ち止った工業デザイナー秋岡芳夫さんが生み、そして今でも確実にその価値を広めている町があります。岩手県洋野町大野です。かつて大野村として酪農が一つの産業であったその場所は、稼ぎが少なくなる冬は大工などとして出稼ぎに出ていってしまう人が多いため、一人一芸をもって出稼ぎの必要性をなくし、暮らしをよくすることを提案し、実現しました。

僕はかねてよりものづくりとまちづくりの掛け合わせで地域をつくっていくことを目指しており、岐阜県美濃加茂市でのアベマキに関する取り組みなど、そこを意識して動いています。秋岡芳夫さんの思想は僕の中で特に重要で、以前から岩手県大野にある「おおのキャンパス」を見に行きたいと思っていました。今回それが実現し、訪問してきましたので、ここに記しておきたいと思います。

信号機が一つ、コンビニが一軒もないまち

岩手県 洋野町 大野 おおのキャンパス 秋岡芳夫

種市町と大野村が合併しできた洋野町は岩手県最北に位置し、北に青森県八戸があり、南には朝ドラの舞台となった久慈市があります。特に大きな山はなく、勾配ある丘が広がるまちです。人口は他の地方と同様に人口減少が続き現在は1万8千人ほどで、20年後には1万人ほどになることが予想されています。

実際行ってみて驚いたのは、信号がなく(聞いたところによると一つあるらしい)、コンビニも1軒もないこと。1ブロックに何軒もコンビニが立ち並ぶ岐阜はおいておいて、同様の人口でも必ずコンビニはあると思ってましたが、洋野町にはありませんでしたおおのキャンパスの事務局長林下さんはこの土地の人間は「購買欲」がないからだとおっしゃっていました。

大野の産業の核、木製給食器を生む大野木工

岩手県 洋野町 大野 おおのキャンパス 秋岡芳夫

秋岡芳夫さんが提案したのが、地元の木材を使って食器をつくること。和轆轤(わろくろ)という器を挽く技術を時松辰夫さんを講師に招き、地元の人たちに教え、そして今では木製の給食器として全国に出荷しています。1980年の「大野村春のキャンパス’80」から36年、今ではその時技術を学んだ人は「クラフトマン養成塾」で講師となり、そしてまたクラフトマン養成塾の卒業生がさらなる後輩の指導にあたるという循環が生まれ、現在も7名のU、Iターン者が技術を学んでいます。養成期間は3年。その後そのまま大野木工に就職し、地元の木材を削り、全国の子ども達のもとへ届けられる食器を作ります。

岩手県 洋野町 大野 おおのキャンパス 秋岡芳夫

大野木工は木製の給食器として全国的に有名で、現在大野の木製食器は全国190か所の幼稚園保育園などで使われているそうです。中には塗装が剥げたり、縁が欠けてしまったりしたものを修理することもあるそうで、それらは何度も何度も修理を重ね、もうこれ以上修理できないというところまで使いわれます。素材が木であること、そして作り手と使い手がしっかりつながっていることが成しえることです。写真は修理で戻ってきた食器と新しい食器を並べたところです。長く使われ、修理されたものは新しいものと比べてすごく薄くなっていました。

そんな大事に使われる木製食器でいただく食事はどんな味がするのでしょうか。子どもたちは食べること、ものを大事に使うこと、そういったことをしっかりと意識し、理解していきます。小さなまちの小さな工房で生み出される食器を通して、全国の多くの子どもたちが当たり前のことを当たり前のこととして、その大事なところを学んでいるわけです。

作り手の顔ではなく、人柄が見える焼印

岩手県 洋野町 大野 おおのキャンパス 秋岡芳夫

大野木工の食器の裏には、どの職人が作ったものかわかるように、職人一人一人の焼印が押されています。この焼印がその人なりを表現しています。子どもたちにとっては、だれだれさんという名前ではなく、焼印のマークのほうが覚えやすいですし、親近感沸きますよね。

マークのデザインも面白いものばかり。なぜこのマークなんだろう?と疑問をもって職人さんの人柄を追ってみるのもたのしいです。

ちなみに、写真は若手職人 猫屋敷さんのもの。猫の手です。かわいらしい猫の手に爪がたっているところがいいですよね。そして猫屋敷という苗字はもう忘れられないですね。芸名じゃないですよ!お人柄もとっても温かく笑顔が素敵な方でした^^

宿泊もでき、様々な体験もできる複合施設としての「おおのキャンパス」

岩手県 洋野町 大野 おおのキャンパス 秋岡芳夫

おおのキャンパスは、当初木工房の施設としてスタートしますが、生産・販売と村民の学びの場としての複合的な施設に発展していきます。現在は道の駅としても機能しており、さらには宿泊施設、体験工房など複合施設として成り立っています。木工だけでなく、陶芸、さき織などの体験もできます。動物たちとの触れ合いゾーンや天文台、パークゴルフなどほんと何日も滞在して楽しめる場所でした。

さき織というものを体験させてもらいましたが、布ができるということがすごく新鮮でした。さき織というのは、綿の栽培もできない東北の寒さの厳しい地域では、使うふるした布を裂いて、また機織りで布を作るのが普通だったそうです。東北の手仕事の一つです。古布が新しい布になる。このサイクルを知るだけですごいことに気づかされたような素晴らしい体験でした。

家族を連れて何泊もしながらおおのキャンパスを中心に岩手県北部を楽しむということもできそうですね。

秋岡芳夫さんの「一人一芸の村」という提案がなかったら

岩手県 洋野町 大野 おおのキャンパス 秋岡芳夫

今回大野を訪問し、おおのキャンパスをはじめ、職人さんの工房などを見学させてもらいました。もちろん全人口からすれば木工に携わっている人は多数ではないですが、農産物などの加工も入れると「一人一芸」という理念は確実に受け継がれているように感じました。

逆に思うのは、もし三十数年前、秋岡芳夫さんが「ねえ、村長。大野を一人一芸の村にしませんか」と提案していなければ、確実にこの小さな東北の村は今のような地位はありません。大野木工が始まり、外部から評価され、村民の意識も変わり、そこに初めて誇りが生まれ、そしてそれを継続していく。そこには必ず人が人と交わり、人が人に伝承し、今の姿に発展してきたわけです。

岩手県 洋野町 大野 おおのキャンパス 秋岡芳夫

そう思うと、立派な施設を目の前にして、何もないころの姿を想像し、そこに一人のデザイナーが提案した「一人一芸の村」という構想がいかに重大であったか。

もちろん、それで人口減少が食い止めれるわけでもないし、すべての人がお金持ちになれるわけでもありません。ここで木工を学んだ人すべてが定住しそれを仕事にしているわけでもないことも事実です。

でもこの岩手県最北の田舎まちを目指して人がやってくる、このまちに住みたいという若い人たちが来るという現実は否定はできないでしょう。大野として確実な価値がそこに生まれているわけです。

今回の訪問を通して、まだまだ自分ができることは非常に小さいですが、自分の考えを貫き仕事をしていきたいと改めて思いました。

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〒028-8802 岩手県九戸郡洋野町大野58-12-30

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