木工

学生から教わった木という素材と向き合うこと

ケヤキの塊

今、自宅工房では大きなケヤキの塊をひらすら鉋掛けしています。ごつごつした木の塊を左下にあるように丸くしていきます。最初は電動がんなで大体の形をだしてから、あとは手がんなで丁寧に削っていきます。これはこのケヤキが生きてきた数百年という時間と向き合っているようなもの。とても貴重な時間です。

岐阜県立森林文化アカデミーの教員になってまる2年が経とうとしています。そして、入学時からみてきた学生がこの春卒業します。先日は課題研究公表会が行われました。課題研究とは2年生の1年間かけて各自設定したテーマについて研究を行い、最後に発表します。今回、みんな中身の濃いアカデミーらしい内容の発表で素晴らしかったです。それが終了すればあとは卒業を待つのみ。まったく木工を知らなかった人たちが、木工技術だけでなく森林などいろんな知識も身に着けて再び社会に飛び立っていきます。教育というのはすごいものです。

話が少しそれましたが、僕がその課題研究で主査として担当した学生は2人。2人とも独特の感性の持ち主で、木という素材に対する考え方、価値観が僕とは違います。僕は、森林たくみ塾という職人養成塾で修行したということもあり、どこか工業的な感覚で、ある木材をつかっていかにいいものを作るか、という意識が強く、木は木であり、それ以上でもそれ以下でもないと感じていました。2人は、それぞれの木、それぞれの素材に個性を見出し、いかにその個性を生かしてものを作るか、という感覚です。どことなくアートに近いのかもしれません。文章でうまく伝わらないかもしれませんが、素材そのものに価値を見出していく感覚は以前の僕にはありませんでした。そのなかでも、2人とも同じわけでもなく、それぞれ別の価値観があります。一方で自然の形状に美しさを見出せば、一方ではその色や形などの特徴をものとして表現していく。どちらにせよ2人の価値観はとても新鮮でした。

アカマツ”トリイ”ベンチ

昨年春に制作したアカマツトリイベンチ。これはアカデミーの林業の先生にアカマツの大きな板があるからベンチを作ってくれないかと依頼されて制作したもの。確かに厚みもあり幅も広く立派な板だったのですが、芯もちで放射状にバキバキに割れが入っているものでした。普通ならまず使わないそういう素材をいかにベンチに仕立て上げるか。その時、初めてその素材と向き合い、素材を意識して制作をしたのでした。出来上がったとき、木工を始めてから初めて「木の仕事をした」という感覚がありました。

2人の学生から教わる「木と向き合う」ということ。木工という楽しさを学生から教わったような気分です。計算しつくされたデザインで出来上がる美しいものも好きですが、自然な形状でいびつでありながらも美しいというのも好きです。まだまだ自分が作るものに的を絞れていませんが、いろんな価値観に触れるというのはとても大事ですね。2人に感謝です。

今やっているケヤキの鉋掛け。これも素材に対し素直に向き合わなけらばいけません。そんなときはとても緊張感がありますが、とても満たされる時でもあります。

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