秋岡芳夫さんの「消費者から愛用者に」を合言葉に1971年に本格的にはじまったグループモノ・モノは職業の枠を超えたコミュニティへ発展し、夜な夜な人が集まり、さまざまな議論が交わされたそうです。今では重鎮として各業界の引っ張っておられる方々が当時のメンバーでした。
今回、このモノ・モノがリニューアルされ、新たに再出発を切ったわけですが、新しく代表となられた菅村大全さんにお話を聞き、改めて秋岡芳夫さんの思想に触れてみると、あるべき「生き方」がとてもシンプルに伝わってきました。
生業としての手仕事を考える。
菅村さんは、とてもとても柔らかい空気をまとった紳士でした。
もともとはライター(今もですが)だったのですが、クラフト関連のお仕事がきっかけでモノ・モノを引き継ぐことになったそうです。彼はハンドメイドビジネス専門誌「Crafter」の発行人、編集長でもあります(2019年5月現在休刊中)。生業としての手仕事とは何か、を考える雑誌なのですが、僕自身もこの雑誌から多くを学ばせてもらっています。
僕は教育という立場でこれから木のものづくりをしていく人たちに木工を教えているわけですが、これからの木工の世界はどうあるべきなのか、どうなっていくのか常に考えています。今回は、そういった共通点から話が始まりました。
手仕事というものは一般的にも、現実的にもそれで食べて生きていくのは難しいです。生半可なことでは成り立ちません。しかし、これまでの時代の中で、また今この世の中でそれで食べてきた(食べている)人はもちろん存在するわけです。作家として、職人としてどのように仕事をすればいいのか、そのあたりを紐解くかのように菅村さんがつくるCrafterではさまざま特集が組まれています。過去を学ぶこと、現実を知ること、そして未来を予測すること、どの仕事にも当てはまると思いますが、怠ってはいけないことだと感じました。
人は道具を作る。動物は作らない。
これからの木工は、これからの手仕事はどうなっていくのか、その答えの参考となるのが、秋岡芳夫さんの思想です。
菅村さんからお土産で秋岡芳夫と柳宗理の対談資料(貴重!)をいただきました。その対談は僕が生まれた昭和56年のものでした。35年前です。しかしその内容は、今の世の中にも全く同じことが言えます。
人は、動物と違って道具を作ることができる。食べ物を作ることができる。たとえ動物で一番賢いチンパンジーでも道具を使いこなすことはできるが、自分で作ることはできない。食べ物を採ることはできるが、食べ物を栽培することはできない。生み出すことができるのは人間のみが持つ能力。その能力を使わないのは、人間ではなくなってしまっている、という話がありました。
さらに秋岡芳夫さんは「工作人間」という言葉を使い、「工夫をしながら、作業をすること」が工作であり、ただの作業は楽しくもない、かつては人の暮らしの中につくることが日常としてあったが今はない。それが人間が人間らしくなくなった理由だ、と述べていました。
とても、興味深いです。高度経済成長期を越えバブル景気に入っていこうという35年前の日本ですから、今はさらにもっとそれが進んだ極限的な状況かもしれません。
僕は、会社員時代、仕事に追われ季節感を失い、こんな暮らしは嫌だ、といって辞め木工の道に入りました。自分で自分の暮らしをつくれるようになりたかったのです。今は、自分の暮らしで使う道具は自分でつくる、ということを実践し、さらに周りの人たちにそれを広めていきたいという思いで木工という仕事をしています。
暮らしに感じる形の見えない違和感や不安感・そして世の中にじわりじわりと広がるDIYブームは今に始まったことではなく、このモノ・モノが始まった60年代後半、70年代から先輩たちが「何かがおかしい」と訴えてきたことなんだ、ということに気づきました。秋岡芳夫さんもそういう思いからさまざまな運動をしてきたんだ、ということを改めて知って、なおさらモノ・モノという場所の意義・価値を理解できました。
モノ・モノはこれからも人をつなぎ、暮らしを見つめる場所
生きていくことが難しい時代。食べていくのが困難な世の中。でも、改めて自分は人間なんだって気づけば、「つくる」を暮らしに入れることができる。それが入ってくるだけで、生き方はがらりと変わると思います。そして、たくさんの人とつながり、交わり、協働で暮らす。このあたりが大事なところじゃないでしょうか。
モノ・モノもかつてあったサロンを再びよみがえらせ、たくさんの人をつなげ、新しい時代を切り開いていくハブとして機能するような場所になっていくといいですよね。
木の良さを伝えるセミナーや木育活動などもモノ・モノで開催していくそうです。また、コワーキングスペーとしても使えるそうです。
かつて多くの人がここでまじりあったように、新しいモノ・モノもこれからの時代を映し出していく場所になることを期待しています。
モノ・モノ再生に向けてクラウドファンディングした時の記事
コワーキングスペースとしてのモノ・モノ情報
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