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これからの「クラフト」はより人々の暮らしに溶け込むものになっていくのではないかという仮説

2018年9月12日

木工 仕事 経営

ずっとまえにこんなブログを書きました。

僕のものづくりに対する考え方に大きく影響しているのが、プロダクトデザイナー 秋岡芳夫さんの思想です。「消費者から愛用者に」「工作人間になれ」といった考えは、今の時代でも大いにいえることだと感じています。

そして、最近すごく言葉の意味を考えることが増えてきたのですが、その中でも「クラフト」という言葉の意味がこれから変わっていくのではないかと感じています。時代と共に言葉の意味は少しずつ変わっていく中で、今、人々の生き方、暮らし方が変化しているなか「クラフト」が変わり始めているのではないか、という仮説です。

クラフトってそもそもなんだ?

木工をやっていると、「工芸」や「プロダクト」や「クラフト」といった言葉や「作家」「職人」という言葉に触れることが多く、時にその定義や意味に困ることがあります。

僕がまだ木工を始めたころ、よく聞かれたのが「で、和田君は作家になるの?職人になるの?」といった質問であったり「作品はクラフトなの?プロダクトなの?」といった質問でした。美術大学でものづくりをしてきた人にはわかるものかもしれませんが、そういう道を通っていないものとしてはまったく何を聞かれているのかわからず、困りました。

その後、仕事をする中で自分なりの解が生まれてきました。

ものづくりと一言で言っても下のようなものがあり、左から右の順で作家から職人そして量産、一般のひとという形で作り手や手法が変わっていきます。
「アート」⇒「工芸」⇒「クラフト」⇒「プロダクト」⇒「DIY」

アーティストたちが自己表現として創作するものはアートであり、マスに向けて大量の生産されるものはプロダクト。その間に、手仕事として工芸とクラフトがありますが、工芸はよりアートに近いところで語られることが多く、クラフトは職人色がつよくまた工芸に比べてカジュアルでより実用的な暮らしにつながるような意味があるように感じています。

Craftの意味と変遷

英語のCraftとは、「力」「技」を表すゲルマン語”Kraft”が語源とされ、もともと「技能」「技術」「技巧」を表す単語でした。

それが、産業革命による大量生産の時代が始まると、機械製造に対比するかたちで「手仕事」「手工業」という意味にも変化していきます。つまり手仕事や職という意味も含まれるようになり、職人や職人技というニュアンスが含まれる言葉になっていきました。

今では、技術を持った作り手たちが、アートという分野ではないが、ある種自己表現も含めた形でのこだわりのあるものづくり(作品作り)のことをクラフトと呼んでいるのではないかと思います。それは、アートのような一点ものでもなく、大量生産のようなマスでもない。小規模の生産活動であることも特徴です。

新しい生活工芸というジャンル

近年では、工芸とクラフトのさらに中間である「生活工芸」という言葉もよく耳にします。非常に耳当たりのよい言葉です。鑑賞用としてのアートに近い工芸ではなく、でもクラフトのようなカジュアルなものでもないもの。実用性もある一方でアートに近い要素も含む。そんなものが「生活工芸」に含まれるんじゃないでしょうか。

「生活工芸」については、このあたりのトークイベントの記録は、読む価値ありです。




クラフトフェアからフェスへの変化

Haystack Mountain School

僕が、木工の世界に入ったのは約10年前。そのころ(2009年ごろ)はクラフトフェアといわれるイベントがちょうどピークを越えたあたりじゃないかとおもいます。全国各地でうまれるクラフトフェアのなかでもやはりクラフトフェアまつもとはレベルが高く、僕もなんども足を運びました。

2000年代中頃は、このクラフトフェアブームがあり、作家や職人などの作り手は新しい仕事のスタイルを求め、売り手も若手作家の発掘を試み、その出会いの場がクラフトフェアだったのです。その当時のクラフトフェアからデビューした作家さんたちがたくさんいました。今とは違いクラフトフェアに訪れるバイヤーの方々も多く、新進気鋭の作家を求めていたのです。

しかし、クラフトフェアはより一般の人が楽しむイベントとして広まっていきます。そして、フェスのような形態も生まれ、食や音楽との融合であったり、そして作り手の人たちも作家なのか企業体としての生産なのかなどの垣根がなくなっていき、背景としてのストーリーやより本質的な価値が問われるようになっていきます。これは2011年の東日本大震災によって人々の暮らしに対する考え方が変化したことも影響していると思います。

DIYブームの意味

同じく東日本大震災が影響して起きているブームがDIYです。

これがブームなのか、はたまた一つのライフスタイルとなっているのかまだわかりませんが、世代や性別を越えてDIYというのが楽しまれているのは事実です。僕のブログにもDIYネタをいくつか載せていますが、記事によっては何十万回も読まれているものすごいアクセスがある記事もいくつかあります。本屋でも女性向けのDIY本が並び、町にはDIYショップが生まれました。

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これからのクラフトは、より人々のライフスタイルへ

僕も一つこういった時代の流れを汲んで、ツバキラボというシェア工房を立ち上げ、一般の人にものづくりの機会を提供しています。

当初は、単純に作りたいという思いに応えるためと思っていましたが、僕が目指しているものはDIYとはちょっと違い、もっと突っ込んだところにあるなぁと感じていました。

AI、IoTと木工の融合!ヒダクマで開催中の「Smart Craft Studio in Hida 2017」に木工の講師として参加してきました。

今回で2回目の開催となる「Smart Craft Studio 2017」が岐阜の飛騨古川にあるFabCafe Hida ...

似たようなことは↑の記事にも書いているのですが、この時考えていたのは、クラフトの重要性です。今はさらに、そのクラフトがより人々の日常に入り込んで、日々の暮らしの行為の一つとしてものづくりが成り立っていくのではないかということです。

体験としてものづくりを楽しむDIY的なライトで、自分のためのものではなく、ものづくりがより日常に、暮らしに溶け込むライフスタイルであり、そしてその作品にもこだわりを持ち、手仕事で自分の想いを作品にこめるスタンス。ある意味 「職」となり、対象が自分ではなく、他者に対してものづくりとして成立するのではないか。

Haystack Mountain School

AIやロボットの時代、人はより自由な時間を手にして、その時間を使って自身の手でものづくりを行うようになり、それが自分のアイデンティティとして確立していく。副業がより広く受け入れられていく中、一般の人にとってクラフトは、クラフト作品を買うという行為にとどまらず、クラフト作品を生み出す側に変化していくんだと思います。

かつての農家が閑散期に手仕事として竹、わら、紙、木、布などを使ったものづくりを勤しみ収入を得ていた時代もあります。そういった経済的な意味合いよりも、これからはより人間らしさを保つために、暮らしの中にクラフトというものをつくる行為がより溶け込んでいくのではないかと。

プロダクトデザイナーの秋岡芳夫さんが、「動物と違い、人間は手を使い、道具を使いものを生み出すことができる。ものを生み出さなくなったら人間ではなくなる」と訴えていました。その言葉は、今の時代、改めて深い意味を持つようになってきているんじゃないかと感じています。

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