日記

同じ道を歩むのか:火車とサブプライムローン

2008年6月27日

昨年から長く深く傷をえぐり続けるサブプライムローン問題。
ふと、ある本を読みたくなった。
宮部みゆき 「火車」
ミステリー小説とは、
社会問題、経済問題を背景に描かれていることがおおい。
逆に言うと、そういった問題があるからこそ、
それに呼応して事件をネタにストーリーが作れるのか。
宮部みゆきの作品の中でも、
この「火車」は色濃くそういった要素を持っている作品だ。
かつて、大学時代、日本文学の授業を取った際、
現代文学として火車を読んだ。
英タイトル:All She was Worth
英語で読んだせいか、細かい内容は理解できてなかったもしれないが、
ストーリーはよく覚えている。
80年代の住宅ローン問題、カード社会、バブル崩壊の一連の
異様なマネー社会のなかで、多重債務者となり、
社会からも追放され、人生を狂わされた人々が続出。。。。
1992年に書かれたこのストーリーは
身内に起こったささいな出来事から
他人事と思っていたこの異様なマネー社会の
その現実と問題を直視せざるおえなくなる展開へ。
小説としてのおもしろさは十二分だが、
読み終わったあと、ものすごい切ない気持ちがはびこるのはなぜだろう。
毎回出張に行くたびに、本を数冊持っていくが、
今回はまずこの「火車」を読んだ。
数行引用したい
「お金もない。学歴もない。とりたてて能力もない。顔だって、それだけで食べていけるほどきれいじゃない。頭もいいわけじゃない。三流以下の会社でしこしこ事務してる。そういう人間が、心の中に、テレビや小説や雑誌で見たり聞いたりするようなリッチな暮らしを思い描くわけですよ。昔はね、夢見てるだけで終わってた。さもなきゃ、なんとしても夢をかなえるぞって頑張った。それで実際に出生した人もいたでしょうし、悪い道へ入って手が後ろに回った人もいたでしょうよ。でも、昔は話が簡単だったのよ。方法はどうあれ、自力で夢をかなえるか、現状で諦めるか。でしょ?」
かつては簡単だった夢を追うか、諦めるかの選択が、
クレジットやサラ金の登場で一般市民が、
実体のない幸せを手に入れるようになる。
本の中で出てくる
「ただ幸せになりたかっただけ」というセリフからは、
そんな幸せな気分に浸っていたかっただけ、
こんなはずじゃなかった、という気持ちがうかがえる。
実際、多重債務に陥る人が悪いという思いをもってしまいがちだが、
そこもぴしゃりと、社会全体の問題であると説く。
話の中でも出てくるが、
たしかに、お金の使い方、クレジットカードとの付き合い方を
学校で教わった記憶はない。
生きるすべを教えるのが教育の目的の一つなら、
真っ先にお金について、教えるべきなのかもしれない。
カードの便利さを知り、はまり、
気づいたら返済に追われるようになり、
そしてサラ金に手を出し、一つの借金を返すために、
別のところかリ、それを繰り返すうちに、
もうにっちもさっちも行かなくなり、自殺。自己破産。
ほんと怖い。
さて、この話とサブプライムローンには
すごく似通ったものがある気がする。
まぁ、この話というよりは、かつてのバブルと、といったほうがいいかも。
実体のないところで得体の知れないものが膨れ上がり、
何かのタイミングでぽんっとはじけ、しぼんでしまう。
社会的、経済的弱者に対し、
夢(ブッシュのいうアメリカンドリーム)を見れますよ、といって
住宅価格の上昇を前提とし数年間だけ金利が低いローンを組ませ、
家を買わせる。
思いがけず、簡単に家を買えたと人は夢を見ているのだ。
所得が上がらなくても、住宅価値が上がっているから、
追加借入が可能となり、債務者は返済のため次から次へと
他の金融機関から借り入れ、気づかないうちに
借金を膨らませる。
ただいったんこのシステムの前提だった
住宅価値の上昇の方程式が崩れると、
それまでのような借り入れができなくなり、破綻。
本当なら、とうに破綻していたのを、魔法のようなシステムで
先に先に延ばしていただけ。気づけばさらにひどい状態で目を覚ます。
個人的にサブプライムローン問題が怖いなって思ったのは、
これらのシステムを仕掛けたのがウォール街のエリート君たちだってこと。
金融工学なんて言葉も出てきて、航空工学理論と同じだなんて。。。
強きものが弱きものを狙うという世の常はあるものの、
人の人生を抱え込んだ実体のないものがゲームのように遊ばれて、
プレイヤーも観客もにたにた笑ってるような、
今のマネーの動きを見ていると、そんなイメージが浮かんできます。
20年近く前に書かれた「火車」
このストーリーがまたこの時代になっても、
重い意味を持ち続けている。
同じ道を歩むのか。
なんとなく、
ぼけっと「生きる幸せ」を一日中空を見上げて
考えてみるのもいいかなって思った。

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